夜は、ちゃんと暗くあってほしい。東京に約5年住んで、俺はそんなことを思うようになった。
30歳で転職を機に田舎から上京し、2021年5月から東京で暮らした。今は転勤で千葉への引っ越しを終えている。車がなくても生活できて、店もイベントも多い。東京が便利だったことは間違いない。
それでも、俺は都会より田舎に戻りたい。東京暮らしで良かったことと、便利なだけでは埋まらなかった居心地の悪さを振り返る。
東京の暮らしは便利だった

田舎から出てきて驚いたのは、電車やバスで行ける場所の多さだった。俺が東京で暮らしていた範囲では、車がなくても移動に困ることがほとんどなかった。
電車を一本逃したとしても問題にならない。路線や時間帯にもよるが、普段の移動では5分ほど待てば次が来る。「この電車に乗れないと困る」と、出発時刻を気にして急ぐ場面は無かった。
移動の予定を細かく組まなくても、出かけられる。 この気楽さは、実際に住んでみてよく分かった。
車が必要な暮らしにも良さはある。それでも、車を持つことを前提にせず生活できるのは、東京で感じた大きなメリットだった。
どこかで必ずイベントをやっている

東京は店が多い。食べたいものがあれば近くの店を検索できるし、少し変わったものを探すときも、都内ならほぼ100%見つかる。
その選択肢の多さを特に実感したのが、イベントだった。あらかじめ何週間も前から予定を立てなくても、休みができてから行き先を探せる。
急な休みで「恐怖心展」に行った

急に振替休日を取ったとき、何かしようと思ってネットで調べたことがある。ちょうど開催されていたのが「恐怖心展」だった。

興味を引かれたので、その展示を見に行った。休みが決まった時点では予定がなかったのに、調べたら行きたい場所が見つかった。
俺が東京の便利さを感じたのは、こういうときだ。平日の急な休みでも、面白そうなことに手が届く。 店の数だけでは説明できない良さがあった。
「沙耶の唄」の朗読劇を見た
ニトロプラスが発売されているノベルゲームの「沙耶の唄」。
グロテスク描写があり、エンディングも気持ちのいいハッピーエンドには行きつかない。それでも俺はこのゲームが好きだ。18歳のころにプレイして、36歳になった今でも強く印象に残っているほど好きなゲームだった。
「沙耶の唄」の朗読劇に行けたのも、東京に住んでいて良かったことの一つだ。
その作品を、今度は朗読劇で体験できた。俺にとっては、初めて2.5次元のコンテンツに触れる機会にもなった。
昔好きだったものに、違う形でまた出会える。興味がある催しを見つけたときに、遠征の段取りから考えずに済むのはありがたかった。
店や人の多さには疲れたが、その多さのおかげで楽しめたものもある。ここは都合よく忘れたくはない。
転職で年収は上がった。ただ、仕事も増えた

地方で働いていたころと比べて、東京へ転職してから年収は上がった。収入が増えたことは、上京して良かったと思う理由に入る。
ただ、その分だけやることも増えた。東京に住所を移しただけで、同じ仕事の給料が勝手に上がったわけではない。
俺の場合は、上京と転職がセットだった。 会社や仕事内容も変わっているので、「東京で働けば誰でも収入が増える」とまでは言えない。
収入だけを比べれば良い変化だった。それでも、その数字だけで「東京の暮らしが自分に合う」とは決まらなかった。
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便利な街には散財も多かった

店が多いことはメリットだが、俺には誘惑の多さでもあった。買い物をする予定がなくても、目の前に店があれば入りたくなる。
「せっかくここまで来たし、ついでに寄っていこう」。そんな理由で店に入り、衝動買いをしてしまうことがあった。必要なものができてから店へ行く、順番が逆だ。
食べたいものが近くにあるのも便利だが、そのたびに財布を開いていたら出費は増える。街を歩くだけで、お金の使い道がいくつも見つかる環境だった。
選択肢が多いほど、俺の「ついで」も増えやすかった。 街の便利さと、財布のひもの固さは同居しない。
お金を使うかどうかは、最後は自分で決めることだ。ただ、誘惑が身近にある暮らしは、俺にとって気をつけることが多かった。
自分と他人を比べてしまう

東京ではいろいろな人を見かける。見た目が整っている人、服装がかっこいい人、仕事も生活もうまくいっていそうな人。上を見てもきりがないのに、自分と比べてしまうことがあった。
印象に残っているのは、学生時代の地元の知り合いと、東京で約15年ぶりに会ったことだ。そいつは卒業後に東京で就職していた。
年収も高いらしく、羽振りも良かった。昔は一緒に虫を捕って遊んでいたのに、ずいぶん違う暮らしをしているように見えた。
話を聞くと、キャバクラやガールズバーに行くのが楽しいらしい。俺には、その楽しさがよく分からない。
同じ地元で遊んでいた人間でも、時間がたてば、お金の使い方も楽しみ方も変わる。頭では分かるのに、目の前にすると妙に意識してしまう。
大学生のころに俺も東京へ来ていたら、こういう遊びを覚えていたのかもしれない。今とはかなり違う感性になっていた気がするし、今の自分が望まない方向へ進んでいた可能性もある。
もちろん、東京に住んだことだけで人の価値観が決まるわけではない。そいつの楽しみを否定したいわけでもない。ただ、久しぶりの再会は、他人の羽振りの良さと、自分がしたい暮らしを混ぜて考えてしまう場面だった。
人混みと明るさに疲れた

東京に来て最初の3か月ほどは、街のにぎやかさが新鮮だった。人も店も多く、夜になっても明るい。田舎とは違う景色が面白かった。
でも、暮らしが日常になるにつれて、そのにぎやかさに疲れるようになった。俺が普段出かける場所は、朝も昼も夜も人が多い。どこへ行っても人混みがあるように感じた。
俺は、人が多い場所が得意ではない。街を歩く人たちが、みんな生き急いでいるように見えることもあった。実際に一人ひとりが何を考えているかは分からないが、俺にはそう感じられた。
夜まで明るいと、一日の区切りが薄くなる

田舎にいたころは、暗くなったら家に帰る感覚があった。東京では夜でも街が明るく、営業している店もあるので、出かけていると時間を意識しなくなった。
夜に買い物や食事ができるのは便利だ。それでも俺は、夜になったら周りも静かになってほしかった。
夜は暗くあってほしい。 東京への不満を細かく並べるより、この一言が自分の感覚にいちばん近い。
たまに遊びに行くなら楽しい場所でも、毎日そこで暮らしたいとは限らない。俺にとって東京は、その違いを感じる場所だった。
東京に来たから、自分が田舎で暮らしたいと分かった

東京での約5年を終えて、今は千葉に引っ越した。今回の引っ越しは仕事の転勤によるもので、目標にしている山奥暮らしを始めたわけではない。
転勤が決まったときに考えた仕事や住まいの変化は、以前に記事にまとめている。ここで振り返りたかったのは、引っ越しの条件より、東京で暮らして自分がどう感じたかだ。
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車なしで動けたことも、沙耶の唄の朗読劇を見られたことも良かった。東京には、田舎にいたままでは触れる機会が少なかったものがあった。
だから、自分に合わなかったという理由だけで、上京を失敗だったとは思っていない。住んでみたからこそ、便利さより静かさを選びたい自分が分かった。
40歳で山奥に暮らしたいという目標は、今も変わっていない。もちろん、田舎へ戻れば東京で当たり前だった便利さは減るだろう。好きなイベントへ気軽に行けなくなることもある。
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それでも俺は、次の暮らしを考えるとき、店の多さや年収だけで決めたくない。人混みに疲れずに過ごせるか。夜になったら、ちゃんと暗くなるか。そういうところも確かめたい。
東京に来る前より、住む場所に求めるものがはっきりした。俺はその感覚を、これからの家探しに持っていく。